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小学校四年生の頃

お寺

小学校四年生の頃、志保は家族と喧嘩をして家を飛び出したことがあった。真夏の昼のことだった。子供の志保がとりあえず身を隠す場所として思いつくのは近所の林くらいだった。

家を出て十分も歩くと民家が途切れ、林と宅地を隔てる急斜面があらわれる。子供たちはよく木の根や枝をつたって、その坂のてっぺんまでよじ登り、そこから緩やかな傾斜を下って林に入って行った。大人が入る場合は斜面をぐるりと回って川の方まで行き、民家裏の溝をつたって行く道を使った。

志保は勢いよく急斜面に立つ木の枝につかまり、足を根にひっかけて坂を登った。てっぺんまでひとふんばり、後はのんびりと坂を下った。坂を下りて左は大人用の溝に通じているので迷わず右の道を進んだ。この道をまっすぐ行けば大きな林に出るし、左に折れれば町外れのお寺に通じている。休みの日のお昼とあって、林の方からは近所の男の子たちの声がした。志保は左に折れ、お寺の方へ向かった。

いつの間にか小走りで先を急ぎ、人気のない静かなお寺の境内にたどり着いた時にはかすかに息を切らせていた。青々と茂る木々の葉からもれる太陽の光に目を細め、汗をぬぐう。木や下生えの草から強烈に緑がにおい立つ。志保は少しでも涼しそうな場所を探して境内をさまよった。

さっきの些細ないさかいが、かすかに胸を絞めつける。居心地の悪い家よりは、ちょっとくらい暑くてもここの方がましだ、と思った。

志保はお堂わきの大きな木の下に、座り心地の良さそうな石を見つけて腰かけた。石はひんやりとしていて気持ちよかった。ゆっくりと背を伸ばし、後ろの木にもたれようとしたその時、大きな声を上げて一匹のせみが飛び立った。志保は思わず悲鳴を上げて飛びすさった。

が、大慌てで飛んでいくせみの後姿と自分の慌てようが面白くて、笑いがこみ上げてくる。もう一度落ち着いて石に腰かけて耳を澄ませてみると、境内の林はせみの鳴き声でいっぱいだった。志保は昔、親戚のおじさんに聞いた話を思い出した。

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Posted by 弘せりえ at 2014年03月24日   11:26
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