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声高らかに歌うせみたちの命の歌

夜の公園

幼虫の体はいつの間にか固いよろいで覆われていた。まるでロボットのような足取りで関節中をギシギシきしませながら、幼虫は苦しそうに暗闇の天井をかきむしる。志保の耳にかすかに、しかし、はっきりと何かが押し寄せてきた。地の底から湧き上がるようなそれは、お経だった。その抑揚のないリズムとせみのぎこちない動きが今、世界を支配している。志保は宇宙の暗闇にいるような気がして、叫び出しそうになった。

その時、せみの前足が痛々しい動きで最後の土をひとかきした。突然あらわれる太陽の光にカラコンをした目が眩む。灼熱の空気。せみのまだかすかに柔らかかった体が途端に悲鳴を上げ、水分を失って固く縮んでいく。志保は恐怖に目がくらんだ。

驚いて目を覚ました志保の耳に、突然境内のせみの声がこだました。さっきよりずっと大きく耳に響き出したその声があまりにも恐ろしくて、子供の志保は耳をふさいで家に逃げ帰ったのだ。

そして今、志保は夜の公園で再び大きく響くようになったせみの声を耳にした。長い夢から覚めたような気分だった。時計を見ると十二時をまわっていた。

ゆっくり立ち上がると、背後で何か落ちる気配がした。せみの抜け殻だった。茶色く乾いたその物体は、夏の風に吹かれてカラカラと音を立てながら木の根元で空虚にゆれている。

「・・・人の一生、せみの一生、どこが違うというのかしら」

公園のどこかで最後の力をふりしぼって声高らかに歌うせみたちの命の歌を聴きながら、志保はその場を後にした。

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Posted by 弘せりえ at 2015年02月10日   10:33
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